いつか自分にも
- vol.41/コンプレサー通信2019年3月号掲載
カラオケ大会の司会と、審査中の時間をつなぐマジックショーのお仕事へ。
会場は某村の温浴施設。
人気の企画らしく、定員三十名の出場枠は毎年あっという間に埋まるらしい。
満席の会場は熱気でムンムン。
ぎゅうぎゅう詰めのおじいちゃん、おばぁちゃんの間を抜け、なんとかステージへ。
ステージと言っても、畳の上に高さ十センチほどの台が置いてあるだけの簡易的な舞台。
ドレスや着物、明るい衣装が客席に見える。
出場者も観客と一緒に座っているのだ。
それにしても、平均年齢が高いなぁ。
「本日司会のコンプレッサーです、この会場ではきっと最年少、どうぞよろしくお願いします!」
トークの軽いジャブのつもりがドッと笑いが起こった。
何をしゃべっても大盛り上がり、皆さんホントに元気で明るい。
「それではトップバッターの方にご登場いただきましょう!」
スーツ姿の痩せたおじいちゃんが立ち上がった。
ゆっくりゆっくり狭い歩幅でステージに向かってくる。
途中で倒れるんじゃないかと心配になるコンプさん。
ステージ前で戸惑う様子が見えたので、肩を貸して、ステージに上がっていただいた。
カラオケが始まった。
夫婦の別れの歌なのね、切ない歌詞だなぁ。
気のせいか、悲しげな表情がチラリと見えた。
勝手にいろいろ想像してしまう。
奥様はお元気なのかな?
どんな人生を歩んでこられたのかな?・・・・。
なんだかしんみり聴き入ってしまった。
仲間たちにトロピカルな首飾りをかけられ、照れ笑いを浮かべながら、客席に戻っていくおじいちゃんを見ていたら、しっかり盛り上げなきゃ!と、ショーマンシップが湧いてくる。
約三時間のイベントを終え、駐車場へ。
「来年も来てね!私はもうこの世におらんかもしれんけど。わはは」
明るい声が聞こえ、笑顔で会釈。
隣の軽トラが出発するのが見えた。
小さなおじいちゃんが運転する助手席にはおだやかな表情のおばぁちゃんが。
なんだか幸せそうだなぁ。
来年も、ご夫婦お揃いで、このイベントに来ることができたらいいなぁと願う。
いつか自分にも、そんな日が来るんだよなぁ。
精一杯生きなきゃね。