生き残るマジシャン
- vol.10/コンプレサー通信2016年8月号掲載
真夏の屋外ステージ、登場して客席をみると誰もいない。
離れた木陰に大勢の観客が。
炎天下の客席を避けてマジックを楽しむつもりらしい。
「わー、そんなに離れて観ていただけると、タネがばれないから安心です。どうぞ遠くからお楽しみください!うっしっし」
笑い声と共に、客席が埋まっていく。
「暑いのにバッチリ上着を着てきました。脱げない理由は聞かないでください。マジシャンには、いろいろ都合があるのです。」
遠くからも楽しめるマジックを選びながら進めていく。
いつも、演目は状況をみながら決めていくのだ。
汗っかきなコンプさん。
以前は、焦っていると思われそうで嫌だったけど今は気にしていない。
「たくさん汗をかくとお得ですよ。みんな勝手に、一生懸命な人だと思ってくれますから!わっはっは」
受け止め方ひとつで、どうにでもなるのだ。
アシスタントのともやんを段ボールに閉じ込めて、ガムテープでとめる。
二十本を超える傘を次々に刺していくと、客席からどよめきが。
人気のイリュージョンマジックだ。
刺されたはずなのに、無傷のともやんが現れると客席から拍手と歓声が。
だけど、ともやんは微妙な表情で、ひと言。
「箱の中に、蚊が入ってきて刺された」
真夏の屋外ステージは何かと大変だ。
だけど、感謝の気持ちを忘れてはいけない。
『この世に生き残るのは強いものでも、頭のいいものでもない。変化に対応できる生き物だ』
という、生物学の有名な言葉が頭から離れない。
どのような環境や客層にも柔軟に対応できるマジシャンになりたい。
そこに欠かせないのがおしゃべりなんだと思う。
マジックの説明だけではない、もっと語れるマジシャンになりたい。
不思議や笑いだけを追求したマジックは他の人におまかせして、自分の道をみつけたい。