コンプさんが目指しているトーキングマジックとは?落語の枕に学ぶ言葉のイリュージョン

こんにちは!マジシャンのコンプレッサーです!私、コンプレッサーが目指している「トーキングマジック」について、ウォーキングをしながらあれこれ考えました。考えながらブツブツ一人でしゃべって録音、文字起こしをしてまとめたブログです。

最近、落語の襲名披露の動画ばかり観ています。歩きながら、そもそもなぜこんなに観てしまうのか、そこから考え始めました。

落語そのものが好きなのか。それとも、名人たちが人前でしゃべる、その行為にひかれているのか。考えるほど、簡単には答えが出ません。

芸歴18年。ずっと「トーキングマジック」を追いかけてきたつもりですが、その正体を自分でもうまく説明できずにいました。歩きながら言葉にしていけば、何か見えてくるかもしれません。

マジックを説明する話術なのか。客席との会話なのか。言葉と笑いで会場の空気を動かし、その日、その場所にしか生まれないショーをつくることなのか。頭の中にあるものを、一つずつたどってみます。

なぜ落語ではなく、落語家のおしゃべりにひかれるの?

歩きながら考えていて、まず思い当たったのは、しゃべっている、その人自身が見えるからではないか、ということでした。

落語会へ通い詰めているわけでもなく、古典落語の演目を片っ端から聴いているわけでもありません。それなのに、襲名披露のあいさつや、落語の本題に入る前のおしゃべりである「枕」は、気づくと何本も続けて観てしまう。

笑いがある。少し毒もある。先輩と後輩の関係がにじむ。

長く芸を続けてきた人の人生まで、ほんの数分のおしゃべりから見えてくる。

しかも、観てきた名人たちは、力が抜けて見えます。

きちんと話そうと肩に力が入っている気配がないのに、言葉が客席へすっと届く。少し危ない一言さえ、その人が言うと笑いになる。

あの「ゆるさ」は、適当にしゃべっているから生まれるものではないんでしょうね。長年、芸を積み重ねてきたからこそ、あんなふうに力を抜いてしゃべれるのかもしれません。

もし、ひかれているのが落語そのものだけではなく、人前で言葉を届ける姿だとしたら。ここに、今のマジックショーを変えるヒントがある気がしてきました。

2023年に開いた、自身の芸歴15周年記念ライブでは、マジックだけでなく、落語やさまざまなステージ芸がひとつの劇場に集まりました。劇場で落語の舞台を観ると、最小限の道具と、言葉・声・しぐさで空気が変わっていく。その強さが、今になってますます気になっています。

芸歴15周年記念ライブの劇場で客席に向き合うコンプレッサー

落語を演じるだけでなく、自らの芸を言葉で論じた先人もいます。その代表が、立川談志師匠です。

1965年に著した『現代落語論』では、落語の観方や観客、芸、人気、笑いまで論じています。そんな大きな看板を掲げるつもりはありませんが、今のうちに「コンプレッサー流トーキングマジック論」を整理したいなという感覚が芽生えてきました。本を書こう、ということじゃなくて、ここ最近のショーで感じている、プロマジシャンとしての活動をはじめた頃に目標に掲げたコンプレッサーオリジナルの「トーキングマジック」について、具体的にしたいなと感じたのです。

https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000039-I2508039

トーキングマジックとは何か?

ここまで考えて、ひとまず見えてきたことがあります。トーキングマジックとは、マジックの手順を言葉で説明することではなく、会場との間に生まれる会話や笑いを使って、その場だけのマジックショーをつくることなのかもしれません。

たとえば「ここにボールがあります」「右手から左手へ移りました」と、起きていることを順番に話す。これはマジックに声をつけたものではありますが、目指しているおしゃべりとは少しちがいます。

決まったダジャレを、決まった場所へ入れる。それも一つの完成された演出でしょうが、ただ、それだけなら、別の会場でも同じことが言えます。

トーキングマジックで大切にしたいのは、その日のお客さまとのやり取りです。それを、ショーの「鮮度」だと考えています。

同じ道具、同じ現象を演じても、その日の客席から聞こえた一言を拾えば、次の展開が動きます。

会場の年齢層、集まりの目的、前の席の表情、誰かの笑い声。そういうものを受け取って言葉を選ぶと、いつものマジックが、その日だけのマジックになる。

以前、パーティーマジックが毎回ちがう理由を書きました。会場の空気を見ながら、その場で演目や言葉を選ぶ。トーキングマジックでは、さらに客席から返ってきた言葉によって、その後の会話や笑いまで新しく生まれるところを目指します。

https://comp-office.com/magic-show/party-magic-live-feel-toyama/

マジックが好きなのか、人が好きなのか

歩きながら、次の疑問が浮かびました。自分は本当にマジックそのものが好きなのか。ここは、少し言いにくい本音です。

マジックはもちろん大好きです。だけど「スゴイマジック」をずっと見ていたいかと言われたら、答えはNOなのです。すごい現象が次々に起きても、演じている人が見えてこないと、退屈に感じてしまうのです。

18年プロマジシャンをやっているのに、マジックの現象そのものを追いかけたいわけではない。なかなか、ややこしい話です(笑)。

口に出してみて、少し分かってきました。本当にひかれているのは、現象そのものより、人前でしゃべる行為や、その人がどう考え、どう話し、どう客席と向き合っているかなのかもしれません。

人気のバーで考えると分かりやすいかもしれません。

マジックをしなくても「あの人に会いたい」とお客さまが集まるバーテンダーさんがいる。お酒がおいしくて、会話が楽しくて、その人のいる空間にまた行きたくなる。そこへマジックが加われば、強い付加価値になります。

反対に、人としての魅力を感じない人が、ただただすごいマジックをやっていても、長くお店を発展し続けることはできないのではないでしょうか。マジシャンが思っているほど、人はマジックに関心がないんだよなと思うのです。

マジックが先ではなく、人が先。これは技術を軽く見る話ではありません。技術をしっかり持ったうえで、その人に会いたくなるところまで芸を育てたい、という話です。

「マジックに逃げる」とはどういうこと?

うまく話せないとき、マジックは助けてくれます。

道具を出して、不思議なことを起こせば、会場は驚いてくれる。長く演じてきた得意な手順なら、ある程度の盛り上がりもつくれます。こんなに頼もしい味方はありません。

でも、その安心に甘えると、ついマジックに逃げてしまう。

会場との会話が浅いままでも、次の現象へ進めばショーは成立します。

沈黙が怖くなったら、道具へ手を伸ばせばいい。これは楽なんです。本当に楽(笑)。

だけど、そこで終わると、ずっとやりたかったショーには届きません。

芸歴の最初から、おしゃべりをしながら演じるマジシャンになりたいと願ってきました。

それなのに、緊張すると言葉より手順を優先してしまう。うまくいった公演の中にも、マジックの力で乗り切っただけだったなぁと振り返る日がありました。

芸歴15周年記念ライブの大きな舞台でも、マイクを持って客席へ話しかけている写真が残っています。

芸歴15周年記念ライブの劇場でマイクを持ち客席へ話しかけるコンプレッサー

マジックをやめたいわけではありません。自分のマジックを、もっと人間が楽しめる芸にしたい。そのためには、道具を動かす手と同じくらい、言葉を選ぶ感覚も鍛えなければいけません。

磨きたい3つの領域とは?

さらに歩きながら考えを整理してみると、今、磨きたいものは3つの領域に分かれそうです。3つとも全部ひっくるめて、私が目指す「言葉のイリュージョン」、つまりトーキングマジックです。ここから一つずつ分析し、自問自答しながら、その正体を探っていきます。

  1. 目の前のお客さまと直接会話しながら笑いを生む
  2. 大きな舞台で客席全体と会話しているような空気をつくる
  3. マジックと関係のない普通の話まで、言葉だけで面白くする

第1の領域|目の前の一人と直接話す

テーブルマジックやサロンマジックは、お客さまとの距離が近い芸です。

カードを選んでもらい、返事を聞き、表情を見ながら次の言葉を変える。予定していなかった一言が返ってきて、そこから笑いが生まれる。直接会話ができるので、トーキングマジックの入口としては分かりやすい形です。

ただし、近ければ自然に会話が生まれるわけではありません。相手の返事を本当に聞かず、次の台本へ急いだら、会話をしているようで会話になっていない。ここは何年やっても難しいところです。

第2の領域|劇場全体と会話しているように見せる

大きな舞台では、一人ひとりと直接話すことができません。

それでも、大勢の客席を一人の対話相手のように受け止め、返ってきた笑いやざわめきへ次の言葉を返します。直接会話していないのに、会話している感覚をつくるんです。

これは一方通行のスピーチとも、目の前の一人との会話とも違います。

客席の反応を待つ間。声の大きさ。視線を送る場所。

どこまで言って、どこを言わずに残すか。客席全体をひとつの相手として受け止めながら進めるので、かなり繊細です。

芸歴15周年記念ライブで大型の木箱を使ったステージマジックを演じるコンプレッサー

第3の領域|普通の話そのものを面白くする

ここまで考えて、ようやく気づきました。今、いちばん身につけたいのが、この第3の領域です。

マジックを見せながら笑いを取るのではなく、普通の出来事を話しているだけなのに面白い。ほんの少し見方や言い方を変えて、間を置くだけで、なんでもない話が急に面白くなる。

落語家さんの枕にひかれる理由は、まさにここです。

難しい話を分かりやすく話すことは、経験を積めば少しずつできるようになります。ラジオ、講演会、経営者団体での講話、司会。ありがたいことに、長く話す場もたくさんいただいてきました。

それでも、真面目な話を真面目に話すだけでは足りない。普通の話の中に、自然な笑いがほしいんです。

言葉のイリュージョンは、何からできている?

ここまでの3つは、トーキングマジックを磨く領域の違いです。では、そのトーキングマジックは何からできているのか。今のところ、2つの材料があると考えています。

一つ目は、マジック特有の観客とのコミュニケーションです。お客さまの反応から笑いを生み、その笑いと一緒にマジックを展開していく。これが、トーキングマジックの核になる部分です。

材料生まれるもの磨く場所
マジック特有の観客とのコミュニケーション不思議と一緒に生まれる笑い客席の近くで演じるテーブルマジック、数十人規模のサロンショー、大きな劇場
普通の出来事を少し違う角度から見る言葉人柄が見える笑い、共感、余韻ラジオ、スピーチ、会議、日常会話

一つ目は、これまで長く磨いてきた部分です。

お客さまに選んでもらう。失敗に見える瞬間を一緒に笑う。

反応に合わせてテンポを変える。マジックがあるから生まれるコミュニケーションです。

二つ目は、これからもっと磨きたい部分です。

会議で意見を伝えるときも、友人と雑談するときも、ラジオで近況を話すときも、全部が稽古場になる。大げさなオチをつけるのではなく、ものの見方と絶妙な言い回しで、普通の話を少し面白くする。

コンプオフィスで開いているマジック研究会では、技術や演目の見せ合いだけでなく、3分間スピーチにも取り組んでいます。言葉にする力は、マジックと別の能力ではなく、ショーを支える大切な技術だと思っているからです。

https://comp-office.com/magic-show/comp-office-magic-kenkyukai-speech/

力が抜けるまで、どうやって稽古する?

名人のゆるさを、形だけ真似してもたぶん滑ります(笑)。

毒舌を言えば面白くなるわけでも、声を張らずに話せば自然になるわけでもありません。あんなふうに力を抜いて話せるのは、ずっと客席を見て、場数を踏んできたからなんでしょうね。

だから、これからは小さな実践を積み重ねます。

  • 日常の小さな違和感を、そのまま流さず言葉にする
  • 会議や雑談でも、相手の返事を受けて一言を返す
  • ラジオやスピーチで、説明より情景を話す
  • 本番で笑いが起きた言葉と、起きなかった言葉を覚えておく
  • 同じマジックでも、会場に合わせて入口の話を変える

こうした小さな実践を考えているうちに、過去の劇場公演と、今歩きながら考えていることがつながってきました。

話しながら歩いていると、頭の中が整理されます。なぜ今これに夢中なのか。どうして落語の襲名披露ばかり観ているのか。自分はいったい、何を目指しているのか。

口に出しているうちに、ばらばらだったものがつながって、探していた答えの輪郭が少しずつ見えてきます。

人生初の自主ライブを振り返ったエッセイにも、舞台をつくることが大きな節目になったと書きました。劇場公演は、マジックの技術だけでは足りないことを、毎回はっきり教えてくれます。

https://comp-office.com/essay/first-solo-magic-live/

整った舞台へ立てるありがたさを書いたエッセイもあります。照明、音響、舞台袖、拍手。その全部がそろった場所だからこそ、最後に問われるのは、そこで何を伝える人なのかということなんでしょうね。

https://comp-office.com/essay/well-prepared-stage/

芸歴15周年記念ライブでチョップカップを演じながら客席へ話しかけるコンプレッサー

マジックの先に、人が見えるショーへ

歩き始めたときには見えていなかった「言葉のイリュージョン」という名前。まだ、自分には大きすぎるかもしれません。

でも、ここまで話してきて、追いかけたいものは少しずつ明確になりました。

不思議な現象を見せるだけではなく、言葉で会場の空気をやわらかくする。客席の反応を受け取り、予定になかった笑いを生む。普通の話から、話している本人の人生や人柄まで見えてくる。

マジックがすごかった、で終わらず、あの人の話をまた聞きたいと思ってもらえるマジシャンへ。

18年やって、ようやくこんな入口に立っています。遅いなぁ(笑)。

だけど、まだ伸びしろがあると思えるのは、すごく楽しい!

落語家さんたちの力の抜けたおしゃべりを、これからもたくさん観ます。盗めるものは、ありがたく盗ませていただきます。ただし、表面ではなく、その奥にある積み重ねから。

次のステージで、昨日より一つでも面白い言葉が出てきたら最高です☆

よくある質問

トーキングマジックとは何ですか?

マジックの手順説明ではなく、客席との会話や笑いを使い、その日、その場所だけのショーをつくる演技スタイルです。

おしゃべりが多いマジックなら、トーキングマジックですか?

言葉の量だけでは決まりません。客席の反応を受け取り、その場に合わせて言葉や流れを組み替えることを大切にしています。

言葉のイリュージョンとは何ですか?

マジック特有の会話から生まれる笑いと、普通の出来事を視点や言い回しで面白くする力を合わせた、これから磨いていきたい表現です。

マジシャンに話す力は必要ですか?

無言で成立するマジックもありますが、会場との距離を縮め、人柄まで見せたいなら、話す力と聞く力は大きな武器になります。

トーキングマジックはどうやって磨きますか?

本番だけでなく、ラジオ、スピーチ、会議、雑談まで稽古場にして、相手の反応を受けながら言葉を選ぶ習慣を積み重ねます。

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