エッセイ:金太郎飴のように
金太郎飴のように
「金太郎飴を目指しています。どこを切っても同じ顔。ステージでも、テレビでも、ラジオでも、打合せ中も、トイレしている時も、お酒を飲んでいる時も、ずっと同じでいたいなと思っています。だって、その方が楽だもの、わははは」
先日、講演の機会をいただき、何気なく話したその部分に共感する方が多かったことを、後からいただいた感想で知り、照れ笑いしました。
伝えたい内容のまとめに時間をかけたのに、その部分よりも、何気なく口にした言葉が印象に残ったようです。
おかげで昔を振り返るありがたい機会となりました。
プロのマジシャンになったばかりの頃、何度ステージに立っても、記憶がなくなるほど緊張し、そんな自分が情けなくて嫌で、この仕事は向いていないのではないかと本気で悩んだ時期がありました。
そんな時、ご一緒させていただいた落語家の師匠から
「高座に上がる時はトイレに行くくらいの気持ちで行けって、うちの師匠が言っていた」
という話を聞いて衝撃を受けました。
それまでずっと、出演時間を特別な時間だと考えすぎていたのかもしれないと思いました。
それをきっかけに、どんな時でも特別な時間だとは考えず、
「ぜ~んぶ同じ時間、ずっと同じ顔」
と自分に言い聞かせるようになりました。
そして十年以上が経った今、言葉ではなく金太郎飴が頭の中に浮かぶようになっています。
あの頃よりも、少しは金太郎飴に近づいているかなと自分に問いかけてみます。
コロナの前とコロナの今も、同じ顔で過ごせているかな。
ぜ~んぶ同じ大切な時間だから、とことん楽しまなきゃね。
※vol.68/コンプレサー通信2022年5月号掲載