エッセイ:本物と偽物

本物と偽物
マジックに一ドル銀貨を大量に使いたくなり、マジックショップを訪れました。
本物の銀貨は一枚約九千円ですが、手品用のレプリカなら一枚六百円。
このマジックでは本物かどうかは問題ではないので、レプリカを注文しました。
届いたレプリカを見て驚きました。
本物を知らない人なら偽物とは気づかないかもしれない、そんな仕上がりです。
長く使っている本物の銀貨と比べると、真新しい偽物の方が綺麗に見えて、九千円と六百円の価格差に思わず笑ってしまいました。
しかし、本物の銀貨の汚れが気になり、専用の薬剤を使って丁寧に磨き上げました。
傷や凹みは隠せませんが、シルバー特有の白い輝きに心奪われます。このコインには愛着があるんです。
再び偽物を見ると、先ほど美しいと感じた輝きが、急に安っぽく見えます。
どんなに新しくても、やはり本物には敵いません。
「本物」とは何か、と考えてみました。辞書で調べると、「偽物や見かけだけのものではない、本当のもの」とあります。
考えを巡らせる中で、一つの答えに辿り着きました。
「飽きがこない」ことが本物の特徴ではないでしょうか。
本物は見るほどに魅力が増し、使うほどに味わい深くなります。
時間とともに価値が上がるのが、本物の証拠です。
逆に、偽物は最初は美しくても、使っているうちにメッキが剥がれてしまうこともあります。
本物の銀貨を眺めながら、本物のマジシャンでいたいと思います。
そのためには、質を高める努力が必要です。
マジックはもちろん、自分自身の質を磨くこともね。
※vol.71/コンプレサー通信2022年8月号掲載