エッセイ:犬とネズミとウサギ

夏祭りの夜。提灯の灯りの下に転がる色とりどりの細長い風船

一番最初のご依頼

細長い風船で、犬やお花を作る。

風船アートというやつに、どっぷりハマった時期があった。

マジックに出会う、ずっと前の話。

面白くて面白くて、毎晩、家でひねってたっけ。

そんな噂を聞きつけたのか、ある日、声がかかる。

「夏祭りで、子どもたちに作ってもらえませんか」

今になって思えば、あれがいちばん最初の“ご依頼”だった。

といっても、ギャラはなし。

そもそも、お金をいただくなんて感覚すら、まだ無かったもんね。

でも、はじめてのご依頼。

犬に、お花に、剣に、冠。

風船をいくつも組み合わせた、手の込んだやつにも挑戦した。

なんでも作れるようにと、風船を買い込んで、それはもう練習した。

さて、本番。

緊張感が半端ない(笑)。

とりあえず、一つ作って、

「さあ、これは何でしょう?」

近くの子に見せると、「ウサギ!」「犬!」と元気な声。

「ちがいます...風船です!」

……どっと笑いが起きた。

調子に乗って、「なに作ってほしい?」と聞いてみる。

「なんでもいい!」

風船をぷーっと膨らませて、ひねりもせず、そのまま手渡し、

「はい、へび...」

また、笑い。

すっかり芸人気分で、喋って盛り上げる。

こういうやりとりが、たまらなく楽しい。

気づけば、目の前に、長い行列。

うしろのほうは、もう先が見えない。

こうなると、「なに作る?」なんて、聞いてはいられない。

そこで、とっておきの作戦。

「犬とネズミとウサギ、どれがいい?」

そう、三択で聞いてしまうのだ。

いちばんカンタンに、スピーディーに作れる、定番の動物たち(笑)。

そんなわけで、その日作ったのは——犬と、ネズミと、ウサギだけ。

あんなに練習したのにね(笑)。

ひねる、ひねる。

はい、どうぞ。

はい、どうぞ。

見かねたスタッフさんが、ようやく止めてくれた。

ふうっと一息ついて、顔を上げる。

そうしたら——

会場じゅうに、色とりどりの風船がいっぱいではないか!

その中で、子供も大人も、みんな笑っている。

その景色を見た瞬間、どっと出ていた疲れが、すうっと吹き飛んだ。

目の前の誰かに、笑ってもらう。

喜んでもらう。

今の道は、たぶん、あの夏の風船から始まったんだろうな。


エッセイを読んでいただき、ありがとうございます。書いているのは、富山のマジシャン・コンプレッサーです。