エッセイ:食べられない魚

食べられない魚
今夜は、飲み会、といっても、半分は、打ち合わせ。
クライアントさんと一杯やるのも、マジシャンの、れっきとした仕事なのだ。
今日のお店は、魚がうまいんだよな。
駅へ向かう、いつもの道。
ふと、あぜ道の用水に、目をやると、
水面に、顔がくっつきそうな、体操服の男の子。
網を片手に、じいっと、覗き込んでいる。
小学一年生、くらいかな。
視線の先は、用水が道の下へもぐる、暗いトンネル。
あの奥に、小さな魚でも、いるんだろうな。
頬を汗がつたっても、おかまいなし。
目だけが、きらきら、光っている。
うしろでは、日傘をさしたおばあちゃん。
バケツを片手に、暑そうに、立っている。
孫に付き合うのも、楽じゃない。
うちの子らも、小さい頃、あんなふうに、網を持って、来ていたなぁ。
そう思うと、なんだか、なつかしい。
と、同時に、
こんな小さな魚を捕まえて、どうするんだろう。
食べられもしないしね(笑)。
現金な自分が、顔を出す。
食べられる魚にしか、興味がなくなったのは、いつからだろう。
でも、子どもの頃は、ちがった。
引っ越した家の、目の前に、川が流れていた。
橋の下をのぞけば、魚が、いっぱい。
もう、大興奮だ。
橋から、ひょいと糸を垂らすと、面白いほど、釣れた。
来る日も来る日も、釣り、釣り、釣り。
食べられもしない、魚をね。
釣った魚はどうしてたっけ?
ひんやり、ぬるっと、ちょっと生臭かった記憶だけが残ってる。
きっと、釣ること自体が、楽しかったんだろうな。
……と、我にかえる。
いけない、電車の時間だ。
男の子に背を向けて、駅へ急ぐ。
さあ、今夜は、うまい魚だ。
エッセイを読んでいただき、ありがとうございます。書いているのは、富山のマジシャン・コンプレッサーです。

