「聴こえに優しい」寄席って?|5月28日 アピア寄席 落語&マジックの会
2026年5月28日(木)、富山市のアピア2F(旧アマン)で、「聴こえに優しい 落語&マジックの会」が開かれます。アピア寄席の特別編 Part Ⅱとして企画されたこの会は、補聴器を常用されている方、高齢性難聴の方、人工内耳の方、聴覚障害認定を受けている方が、安心して落語とマジックを楽しめる場として用意されたものです。
出演は、落語家・三遊亭良楽師匠、それからコンプレッサー。
「こういうイベントが行われている」という事実そのものと、そこに込められた意義のほうを、出演者の一人として書き残しておきたいんです。

5月28日(木)アピア2Fで「聴こえに優しい落語&マジックの会」が開かれます
ざっくり概要だけ整理しておきます。
- 日時:2026年5月28日(木)14:00〜15:30(13:30開場)
- 会場:アピア2F(旧アマン/富山市稲荷元町2丁目11-1)
- 出演:三遊亭良楽、コンプレッサー
- 対象:補聴器を常用の方/高齢性難聴の方/人工内耳の方/聴覚障害認定の方
- 定員:35名(事前予約・参加無料)
- 主催:happy life アピア
- 後援:富山県/富山市/北日本新聞社
- 協力:人工内耳友の会 acita 富山支部
- 申込・問い合わせ:音サポとやま(090-3295-7247)
健常の方も、ロビーのテレビモニター越しに観覧できる設えになっています。
「聞こえなくても楽しめる」を可能にする3つの仕掛け
この会のいちばんの特徴は、舞台上で何が起きているかを、聴こえに不安のある方にもしっかり届ける仕組みが用意されている点にあります。

UDトーク(音声認識による字幕表示) は、出演者が話した言葉をリアルタイムで音声認識し、客席後方の画面に文字として映し出すツールです。コンプレッサーは過去にも、このUDトークが入った会に出演したことがあるのですが、終演後にスタッフの方から「コンプレッサーさんの言葉は、すごく綺麗に文字に変換されていましたよ」と褒められたことがあります。マジックの腕前ではなく音声認識の精度を褒められるという、なんとも不思議な出来事でしたが(笑)、それくらい「言葉が届く設計」がしっかり組まれている、ということなのでしょう。
ヒアリングループ は、会場の一定エリアに磁気誘導の輪を張りめぐらせることで、補聴器をTモードに切り替えた来場者の耳に、雑音を排して登壇者の声だけがクリアに届く仕組みです。会場のざわつきや反響に邪魔されずに、舞台の声がスッと耳に入ってくる感覚は、実際に試してみないと分からないものらしいですね。
オーラキャスト(Auracast) は、Bluetoothベースの新しい放送規格で、出演者の声を電波として飛ばし、来場者が手持ちのスマートフォン、イヤホン、補聴器で受信できる、というもの。電車のアナウンスや空港の搭乗ゲート案内など、騒がしい環境で“聞き取りたい音だけを選んで受信する”という未来が、もうそこまで来ているのを実感します。
この3つを組み合わせることで、聞こえに不安のある方が、それぞれに合った受け取り方を選べる。それが今回のアピア寄席特別編のいちばんのポイントです。
「知らない」は怖い、という当たり前を、打ち合わせで思い知りました
今回の打ち合わせに行くまで、コンプレッサー自身、「聴こえに優しい寄席」と聞いてもピンと来ていませんでした。マイクで話して、字幕も出る。それくらいの理解でしか、正直なかったんです。
ところが、打ち合わせの場で同席されていた方の一人が、こんな話をしてくださいました。
「実は私、60歳のときに耳が聞こえなくなったんです」。
そう話されているご本人は、普通に会話をされている。何のことか分からず聞いていると、人工内耳の手術を受けて、機械を通じて音を脳に届けられるようになった、というお話でした。元々は舞台照明のプロとして富山で活躍されてきた方で、聞こえなくなってから、手術を経て、いまは再び音のある世界に戻ってきていらっしゃる。
「コンプレッサーさんの声、去年のイベントですごく聞きやすかったですよ」と、その方にも褒めていただきました。声の聞きやすさ、聞きにくさは、人によって本当に違うものらしくて、これはもう両親に感謝するしかない領域です。
別の場面の話を、もうひとつ。普段からよく一緒にお酒を飲んでいる友人と、ある時に電車に乗りました。隣の席に座っていたら、「ちょっとコンプレッサーさん、席変わってよ」と言われて、ハッとしたんです。聞いてみると、片方の耳が聞こえづらい、と。だから話している時に、ちょっと顔を傾けて聞いてくれていたのか、と、そこで初めて気づきました。
長く一緒に時間を過ごしていても、相手が経験していることに、なかなか気づけない。「知らないって怖いな」と、最近よく思います。
“あちら側”の感覚を、ちょっとだけ想像できるようになる場
コンプレッサーも52歳。まだ元気なつもりでいても、若い頃に比べると、いろんな音が一度に飛び込んできた時に、聞き分ける力が少しずつ落ちている感覚があります。一定の高さの音が、ちょっとだけ遠くなった気もする。日常では誤魔化せても、こうしてイベントの打ち合わせの場で「聴こえ」というテーマに正面から向き合うと、ああ、これは決して他人事じゃないんだなと、すっと腹に落ちてきます。
聴こえに不安のある方に楽しんでもらうための場、というだけではなくて、そうではない側にいる人間が「そっち側の景色」を少し想像できるようになる場でもある。今回の会には、そういう二重の意義があるのだと思います。
そう言えば過去には、聴覚障害の皆さんの前で、手話通訳を入れていただきながらマジックショーをさせていただいたこともありました。最初は「どっちを見ればいいんだろう」という空気がほんのり流れたものの、終わってみれば、皆さんしっかり笑って、楽しんでくださった。マジックという表現は、言葉に頼り切らない分、こういう場でこそ力を発揮してくれるところがあるなと、あの時にも気づかされたものです。
社会福祉の現場でマジックの果たす役割については、以前にも改めて整理して書いたことがあります。
https://comp-office.com/magic-show/shisetsu/
出演者として、まずは“その場”の空気を受け取ってきます
正直なところ、UDトーク・ヒアリングループ・オーラキャストの3つが同時に走る会場というのは、コンプレッサー自身、まだ完全には体感したことがありません。だからこそ、5月28日は、出演者である前に一人の観客として、その空気をしっかり受け取って帰ってこようと思っています。
当日の様子は、また改めてレポートとしてお届けする予定ですので、もう少しだけお待ちください。
会場側で動いてくださっている happy life アピア の皆さま、人工内耳友の会 acita 富山支部の皆さま、音サポとやまの皆さまに、深く御礼申し上げます。
聴こえに優しい、というささやかな一言の裏側に、これだけたくさんの工夫と思いが詰まっていることを、もっと多くの方に知っていただけたらうれしいです。
アピア寄席そのものの背景については、こちらの過去記事もぜひ。
https://comp-office.com/magic-show/apia-yose-report-2025/

